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新生子牛の体温について
- 子牛の疾病
分娩前、母体の中にいる胎子の体温は、羊水の温度によって一定に保たれています。しかし、出生直後の子牛(新生子牛)は、自分で体温を調節しなければいけません。そこで今回は、新生子牛の体温低下を防ぐための管理についてお話しさせていただきます。
新生子牛は、体重に対する体表面積の比率が大きく、皮下脂肪が少ないため、寒冷条件下で冷えやすい特徴があります。成牛は、第一胃の発酵熱が大きいため体温を維持できますが、新生子牛は第一胃が未発達であり、筋肉の活動による熱生産もほとんどないため、代謝の過程で産生される熱が主なエネルギー源になります。このため、初乳の摂取は、免疫因子や栄養成分の摂取としてだけでなく、新生子牛の体温維持にも大きく関与します。
また、出生直後の子牛は、被毛が羊水で濡れているため、環境温度による冷却や羊水の蒸発に伴う気化熱で体温が低下しやすい傾向もあります。このため、厳寒期の分娩は子牛の体温低下を防ぐことが重要です。
体温低下を防ぐ手段
【リッキング】
リッキングとは、出生後の新生子牛を母牛が舐める生理的な行動のことを指します。
母牛のリッキングが新生子牛の羊水で濡れた被毛を乾燥させることで、羊水の蒸発に伴う(気化熱による)体温低下を抑制する効果がありますが、近年このリッキングがこの他にも新生子牛の健康に重要な役割を持つことが明らかになってきました。
リッキングを受けた新生子牛は、血清γ-グルタミントランスフェラーゼ(GGT)の活性値、γグロブリン濃度および動脈血酸素分圧が高かったという研究があり、このことからリッキングを受けた新生子牛は、初乳吸収率が高まり、さらに呼吸機能の改善効果が期待できることがわかりました。
リッキングのマッサージ効果により、消化管運動が活発になり、第四胃に貯留する羊水の除去、排尿、排便が促進されることでも初乳の吸収率が高まり、母牛が自分の産子を認識することにも役立つため、可能な限りリッキングを行わせてみるのも良いかもしれません。
しかし、感染リスクを重視して速やかに母牛から新生子牛を離した方がいい場合もあります。その場合は、敷きワラや乾いた布を用いてマッサージしながら新生子牛の羊水を拭き取ることが望ましいです。
【カーフウォーマー】
新生子牛の被毛が完全に乾燥せず、低体温となった結果、哺乳欲が発現しなくなる場合があります。その際は、カーフウォーマーも新生子牛の体温低下の防止に効果的です。しかし、長時間カーフウォーマーの中に新生子牛を入れておくと、暑さと乾燥で脱水症状になる危険性があるため、新生子牛の体毛が乾いて哺乳欲が発現した段階で出してあげましょう。

【初乳の摂取】
前述したとおり、初乳の摂取は免疫因子や栄養成分の摂取としてだけでなく、体温維持にも大きく関与します。新生子牛は、体脂肪蓄積量が極めて少なく、蓄積エネルギーも非常に少ないため、特に寒冷条件下では体温維持のために半日~1日程度でエネルギーが枯渇します。初乳は、常乳と比較して4倍のタンパク質を含み、さらにエネルギーとして最も有効な脂肪含量も約2倍含むなど、エネルギーが枯渇しやすい新生子牛にとっては貴重なエネルギー源です。
【他にも・・・】
◎豊富な敷料:子牛の放熱を抑制します。
◎カーフジャケット着用:子牛に着用させることで体表面からの放熱を抑制します。
※ネックウォーマーの装着も効果的です。
◎十分な換気:子牛は換気が不十分な環境に極めて弱いため、十分な換気が必要です。
◎すきま風を防ぐ措置:屋外から吹き込むすきま風は、隙間と通して風速がアップするため、子牛に
直接すきま風が当たらないようにすることも大切です。
オホーツク統括センター
北見家畜診療所
獣医師 伊藤 由貴



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