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黒毛和種の去勢について~疼痛を意識した去勢のススメ~

  • 肉牛の管理と疾病

 去勢は、脂肪のつきを良くする、肉質を向上させる、雄性が弱くなるため飼いやすくなる効果があります。去勢の実施方法はさまざまですが、アニマルウェルフェアの観点からできるだけ苦痛の少ない、牛にとって楽な方法を採用することが重要です。去勢実施前後の注意点とDG(一日平均体重)上昇を目的とした疼痛を意識した取り組みを紹介します。

去勢実施前後の注意点

 皆さんは、概ね4~6カ月齢になるまでに去勢を実施されていると思います。術前と述後に注意点がありますので紹介します。
 術前の注意点の1つ目はは、発熱の有無や呼吸器症状を出していないかです。去勢が行われる時期は、牛群移動やワクチン接種など少なからずイベントがあります。このように、ストレスがかかる時期はどうしても呼吸器症状が出てしまうことがあります。体調が悪い牛は、しっかり治療して元気になってから去勢を実施するようにしましょう。
 2つ目は、精巣がしっかり2つあるか確認することです。潜在精巣の場合、精巣は皮下や腹腔内に迷入していますので、通常の去勢とは異なる方法で実施しなければなりません。
 次に術後の注意点です。術後7日目で明らかな腫れや熱感、痛みがある場合は、術後の合併症の可能性が高いので、獣医師に相談してください。
 5カ月齢の黒毛和種8頭を対象に、去勢当日から7日間、10日目、14日目、21日目に陰嚢の写真を撮影し、縦×横(cm)の計測をしたところ、術後1~2日目に陰嚢の基部が最も腫れることがわかりました。陰嚢は、3日目から縮小が始まり、5日目程度で陰嚢の基部の腫れが引き良好となります。また、生後8カ月齢の黒毛和種を2頭去勢する機会があったため、同様の計測をしてみたところ、若齢期に去勢した群と比べて腫れが引くまでの期間が長く、14日目でようやく治まってくる結果となりました。
 月齢が進めば進むほど、身体が大きくなればなるほど牛の負担も大きいため、去勢忘れは絶対に避けましょう。

疼痛を意識した取り組み

 牧場従業員が去勢を実施されていた農業者の方からご依頼があり、診療所で去勢を実施するようになった事例を紹介します。疼痛緩和や疼痛管理を目的にメロキシカム製剤とブトルファノールを使用することでDGが上昇した事例になります。
 図1は、R5群が牧場で実施された69頭、R6群が診療所で実施した67頭を表しています。

図1 R5群とR6群のDGの比較

 R5群ではDGの中央値が1.15に対してR6群は1.2でした。270日齢で出荷すると仮定してわかりやすく体重換算すると、R5群が310kg、R6群が324kgとなります。何が変わったというと、術前10分前までにメロキシカム製剤を投与したことです。メロキシカムは、痛みの緩和が得意な薬のため去勢後の疼痛が減少し、DG上昇に貢献したと考えられます。販売価格にも良い影響が出ており、昨今の相場でも市場平均価格を上回る割合が増加しました。
 これを受けて、次にブトルファノールを追加しました。ブトルファノールは内臓痛に対して良好な鎮痛効果を持つ麻酔薬です。出荷した牛では、安定したDGと販売価格も良く手ごたえを感じています。

日齢250日、胸囲からの推定で約350kgの去勢牛(DG1.4)

 鎮静を目的に投与するキシラジンの量を減らすことができる点、去勢中の不動化や増井の覚醒後すぐに採食しにくるなど、牛の負担が少なく疼痛がさらに減少した印象を持ちます。
 昨今、黒毛和種の大型化が進み、素牛の出荷時DGは年々上昇しています。血統構成も非常に重要なポイントとなってきますが、疼痛やストレスでDGの上昇を妨げない工夫も重要ではないかと考えています。

道央上川センター
 上川北支所 美深家畜診療所
獣医師 山本 浩平

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