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牛の血液検査について
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皆さんも病院へ行くと採血をして血液検査をすることがあると思います。動物も同じように病気を疑った場合に血液検査をすることで、より正確な診断に基づく効果的な治療を実施することができます。今回は、牛の主な血液検査の概要について紹介します。
採血の方法
牛では、主に尾にある尾静脈もしくは首にある頸静脈から採血します。尾静脈は手技が簡単で作業時間も短く済むため、多くの場合はここから採血します。
しかし、子牛などの尾静脈の確保が難しい場合や、ある程度の血液量が必要な場合は太い頸静脈から採血します。
検査の結果
〇血液一般検査
採取した血液が固まらないようにする薬品を用いて、血液中の血球の数やその割合などを調べます。顕微鏡などで検査も可能ですが、現在は全自動の機会で検査するのが主流です。
RBC(赤血球数)
赤血球の数を示しています。多いと脱水、少ないと貧血を疑います。
WBC(白血球数)
白血球の数を示しています。八けっきゅには、好中球やリンパ球などいくつか種類があり、種類ごとの数やその割合を比較して結果を確認にします。例えば、好中球が多い場合は細菌による感染症を疑います。リンパ球が異常に多い場合は、牛伝染性リンパ腫を発症していることがあります。
Ht(ヘマトクリット)
血液のうち、赤血球や白血球などの細胞の占める割合を示しています。高いと脱水、低いと貧血を疑います。貧血の場合は赤血球数やヘモグロビン(血色素)の量の数値と併せて、貧血の種類を特定することができます。
〇生化学的検査
血液を遠心分離機にかけて血餅(血液の細胞成分が固まったもの)を取り除き、残った液体部分(血清)を使用して、その中に溶けている成分を検査します。
TP(総タンパク質)
血清に溶けているたんぱく質全ての量を示します。ただし、たんぱく質にはいろいろな種類があり、その区別はしていません。このため、TPだけでは病気の特定は難しいですが、感染症にかかると高くなる傾向があり、低栄養のときは低くなる傾向があります。
淡白分値
血清たんぱく質の中には、主にアルブミンとグロブリンがあり、どの種類がどれだけあるのかを調べます。アルブミンは、血清たんぱく質の主な成分で、体内の各種成分の運搬や、血液の濃さ(浸透圧)の調整に関わります。グロブリンには、細菌やウイルスに対する抗体が含まれており、感染症の時には抗体産生のため特に高くなり、感染症の診断に役立ちます。
A/G(アルブミン、グロブリン比)
グロブリンには抗体が含まれるので、体内の抗体の量が増えるとグロブリンが増えます。このため、感染症にかかって抗体がつくられると、アルブミン(A)が変わらなくてもグロブリン(G)が増え、その比(A/G値)は小さくなります。なお、加齢でも感染源に接する機会が増えるので、数値が低下する傾向があります。
GOT、GGT
いわゆる「肝臓の数値」です。どちらも酵素(たんぱく質)の一種ですが、このうちGOTは肝臓や筋肉、GGTは特に肝臓の一部の細胞に多く含まれており、これらの細胞に異常があると血液中に漏れ出してきます。このため、肝臓に問題があると数値が高くなります。実際には、これらの数値だけでは肝臓が悪いかは判断が難しいので、他の数値と併せて確認します。
BUN
血中の尿素として存在する窒素の量を示します。尿素は食物に含まれる窒素(たんぱく質)の最終的な代謝産物で、短期的な採食量を示す目安になります。また、腎臓で排泄されますが、腎臓に異常があると十分に排泄されなくなり、数値が上昇するため高値の場合は腎臓の異常を疑うこともあります。
Ca
カルシウムは、特に乳牛で泌乳が急激に増加する分娩前後に発生する欠乏症(乳熱)が問題になります。カルシウムは体内において筋肉の動きに大きく関わるミネラルで、不足すると起立不能や皮膚温度の低下がみられます。
最後に
ここまでは特によく実施される検査の一部です。このほかにも病態に合わせてさまざまな検査が実施されます。血液検査を実施した後、検査結果についてご質問などありましたら、お近くの家畜診療所へお気軽にお問い合わせください。
十勝統括センター
家畜部
獣医師 野村 康幸