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「おへそ」の腫れている子牛はいませんか?
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子牛は胎子期に臍帯を通して母体と栄養のやり取りを行っています。生まれた後、この臍帯に細菌が感染してしまった状態を「臍帯炎」と呼び、重症化すると子牛の発育に影響が出るだけでなく、時には死亡する厄介な病気です。
臍帯炎の原因
臍帯には、臍静脈・臍動脈・尿膜管という3種類の管が通っています。正常であれば分娩の際に胎子の臍帯はゆっくりと離断し、臍帯の中を通る管は腹腔へ引き戻されて閉鎖します。そして残った臍帯は乾燥することで感染を防ぎます。しかし、難産や早すぎる胎子の牽引などで臍帯が根本からちぎれるなど、引き戻されるはずの管が露出してしまうと感染のリスクが上がります。
清浄に離断したとしても、生まれた場所の衛生状態が悪いなど臍帯の乾燥が不十分な状況でも感染が起こります。特に、初乳の不足などで十分な免疫を獲得できなかった子牛では、感染が臍部だけに留まらず前進へと広がる危険性があります。
臍帯炎の症状
主な症状は、臍部の腫れや熱感、疼痛や化膿です。臍部の腫脹で気付くことが多い病気ですが、深部に膿瘍を形成している場合は腫れがあまり目立たないことがあります。慎重な触診やエコー検査によって明らかになる場合もあるため、獣医師の診断が必要です。
臍を通る3つの管は、それぞれ体の奥の臓器とつながっています。臍静脈は頭方向へ伸びて肝臓とつながり、この部位の感染は肝膿瘍や肺炎のリスクとなります。
臍動脈と尿膜管は尾側へ向けて伸び、感染によって膀胱炎や腎炎などを引き起こします。
いずれも感染が全身に移行すると、肺炎や腹腔での膿瘍形成、多発性関節炎などの二次疾患を継発するため早期発見が重要です。

摘出した臍帯
臍帯炎の予防
臍帯感染を防ぐために最も大切なことは、分娩房の衛生管理と子牛の免疫力を向上させることです。また、臍の適切な消毒も予防効果があります。出生直後は、臍帯内部に血液などが残り細菌が増殖しやすい環境となっているため、臍帯の付け根を清潔な手でしごいて内部の液体を排出させた後に消毒を行う必要があります(※YouTubeで”子牛の臍”と検索し、手技を動画でご覧いただけます)。
使用する消毒液は、2%のポピドンヨード剤や0.5%のクロルヘキシジンの使用が推奨されています。これらの消毒剤を出生後1日2回ほど臍が乾燥するまで使用します。
ただし、臍の断端を広げて薬剤を内部に注入すると、臍にとって過剰な刺激を与え炎症を引き起こす場合があるので注意が必要です。
最後に
臍帯炎に感染した影響は子牛の時期だけではありません。発見が遅れたり長引いたりすることで体の中に膿瘍が残ってしまうと、成牛になってから心疾患や鼻出血などを発症するリスクが上がるという報告もあります。
このように厄介な病気である臍帯炎は、清潔な環境と適切な管理下で予防することが可能です。臍帯の衛生的な管理について、いま一度見直してみてはいかがでしょうか。
ひがし統括センター根室西部支所
根室西部家畜診療所
獣医師 岩富 裕輝