情報発信

蹄病の原因と予防

  • 牛の繁殖・飼養管理
  • ひがし

 牛の跛行の主な原因として知られる蹄病ですが、牛の痛みやストレス要因だけでなく、他の病気の原因にもなり、悪化すると起立不能になることもあります。今回は、特に乳牛の生産性に大きく関わる蹄病についてお話しします。

蹄の構造

 牛は左右の前肢および後肢にそれぞれ2つの蹄を持ち、それらは趾間で隔てられているます。2つの蹄はヒトでいう中指と薬指で、約700kgの体重をつま先立ちで支えているような状態です。
 牛の蹄を断面で見てみると(蹄の断面図)、蹄の周囲を覆っている固い角質は蹄壁と蹄底に分けられ、それらの結合部は白帯と呼ばれ蹄壁・蹄床よりもやわらかい構造をしています。その内側には神経と血管を有する蹄真皮が存在し、その内側に蹄骨が存在します。

蹄の断面図

蹄病と分娩の関係

 蹄病は複雑な要因が絡み合って起こります。臨床現場で多く見られるのは蹄底腫瘍・白帯病などの蹄角質疾患、趾皮膚炎(DD)などの感染性疾患です。
 蹄底腫瘍は頻発する蹄病の一つです。蹄の過長による蹄角度の異常や起立時間の延長、ルーメンアシドーシスや乳房炎などに起因する毒素血症によって蹄真皮が血行障害を起こし、壊死することで起こります。多くは後肢外蹄に発症し、患部は角質を作り出すことができず穴が開いた状態となり、悪化するとそこから肉芽が突出します。

肉芽が突出した蹄

 蹄底腫瘍の原因の一つとして、分娩が関与していると言われています。分娩は牛にとって多くのストレスにさらされる時期です。慣れない牛舎・牛群への移動、濃厚飼料多めの泌乳期飼料への変更など、蹄病を誘発する要因がいくつもあります。また、分娩時に骨盤周囲の靭帯を緩めて産道を広げるリラキシンというホルモン分泌が増え、蹄骨を吊り下げている靭帯もこれによって緩むことで蹄骨が動きやすくなり、蹄真皮が傷つきやすくなります。アミノ酸など角質形成に必要な栄養が泌乳に回されることで、質の悪い角質が作られてしまうことも影響しているようです。

蹄病を予防するには

 蹄の過長を防ぎ理想的な形に整えるため、年間2回(できれば3階)以上の定期削蹄を行いましょう。感染性の蹄病が多い場合は、除糞をこまめに行い、適切な薬剤による蹄浴を実施しましょう。前述のように分娩前後は特に多くのストレスを受けるため、この時期の飼養管理を徹底しましょう。
 蹄病に限ったことではありませんが、牛がゆっくりと休める状態を作り出す(過密にしない、敷料を多く使うなど)ことや、牛をよく観察し異常(跛行)あれば早い段階で対応(治療)することが重要です。皆さんもあらためて蹄病の予防について見直してみてはいかがでしょうか。

参考文献:緑書房「牛の跛行と蹄管理」

ひがし統括センター
釧路中部支所 釧路中部家畜診療所
小泉 桃子

家畜技術情報一覧へ