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クリプトスポリジウム症について

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 子牛の下痢症の中でも、クリプトスポリジウム症は特に対策が難しいため、苦労されている方も多いと思います。今回はクリプトスポリジウム症の治療や対策方法について、最新の文献や実際の対応例から得られた知見を紹介します。

クリプトスポリジウム症とは

 クリプトスポリジウム症は、消化管内に寄生するクリプトスポリジウム原虫によって引き起こされる感染性下痢症の一つです。ハッチや牛床に付着した原虫を子牛が口から摂取することで感染し、早い場合は生後数日から発症します。発症すると黄白色の水様性下痢を生じ、脱水症状が重篤な場合は残念ながら死亡することもあります。
 発症した子牛の糞便中には多数のクリプトスポリジウム原虫が含まれています。原虫の大きさは直径約5μmと非常に小さく、肉眼で原虫を見つけることは不可能です。下痢症の原因病原体は他にも数多くあり、下痢弁の性状からクリプトスポリジウム症を診断することはできません。獣医師が糞便中に含まれる原虫を顕微鏡で確認するか、専用の検査キットを使用して診断します。

糞便中のクリプトスポリジウム原虫(矢印)

クリプトスポリジウム症の治療

 現在はクリプトスポリジウム症に有効なワクチンや治療薬は市販されていません。子牛の脱水症状を改善し、衰弱を防ぐことが基本です。抗クリプトスポリジウム抗体を含む卵黄抗体製剤(グローアップ88、イーダブルニュートリションジャパン、岐阜)を初乳には製剤60g、生後2週齢までは製剤10g/日を生乳に混ぜて投与することで、糞便中に含まれる原虫が減少することが報告されています。さらに木酢酸粉末を団子状にすると、比較的簡単に子牛へ投与することができます。

子牛への木酢酸粉末の投与方法

クリプトスポリジウム症の対策方法

 クリプトスポリジウム症には特効薬がないため、感染を予防することが大切です。クリプトスポリジウム原虫に汚染されたエリアを特定し、念入りに洗浄・消毒することが感染予防の基本原則です。

消毒のフローチャート

 はじめに獣医師による糞便検査で汚染エリアを特定し、対策エリアを絞り込みます。次にエリア内のハッチや牛床などを念入りに洗浄し、原虫を物理的に排除します。暑い殻に覆われた原虫には、多くの消毒薬は効果がなく、熱湯や乾燥による消毒が有効です。熱湯消毒の場合、72℃の熱湯を約1分間かけ続ける必要がありますので、温度管理に注意してください。熱湯消毒ののちに、2~6カ月程度の乾燥を実施します。最後に消毒した箇所に石灰乳を塗布して残っている原虫を封じ込めます。コクシジウムの消毒に使用するオルソ剤を希釈した石灰乳に用いると、約120分で原虫失活します。作業者や感染した子牛を介して汚染が拡大することが多いので、作業動線の見直しや踏込消毒槽の設置も同時に検討してください。

対策の重要性

 一度の対策でクリプトスポリジウム症が清浄化に至る事例は少なく、下痢の発症を減らすことにより被害を軽減することが対策の目的です。対策を実施することで、環境中の原虫数が減少し、子牛の下痢症を減らすことが可能です。万が一再発した場合には、汚染エリアを再消毒し、汚染を蓄積しないことが重要です。対策後も被害げ軽減しない、もしくは対策の実施が困難な場合は、子牛の飼育場所の変更を検討する必要があります。
 クリプトスポリジウム原虫は牛だけではなく、人にも感染性を有しています。人が感染した場合、子牛と同じく激しい水様性下痢を生じます。過去には汚染された水道水を介し、人での大規模な集団発生も起きています。牛だけではなく、人にも健康被害を及ぼすことから、農場内が汚染された場合には、早期に対策を進めることをおすすめします。クリプトスポリジウム症にお悩みの方は、お近くのNOSAI家畜診療所の獣医師に相談してください。

参考文献①野崎敢、他:産業動物臨床医学雑誌、10:68-72(2019)
    ②Watarai S, et al.:J Dairy Sci、 91:1458-1463(2008)
    ③髙橋和瑛、他:家畜診療、70:407-416(2023)
    ④松原立真、他:日本畜産環境学会誌、21:32-38(2022)

十勝統括センター
十勝北西部支所 上士幌家畜診療所
髙橋 和瑛

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