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子宮脱について

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 皆さんは、下図のような分娩後に子宮が飛び出してしまった牛を見たことはありませんか。いわゆる子宮脱と呼ばれる状態です。今回は、分娩に関する事故の一つである、子宮脱について紹介します。

子宮脱の原因は?

 子宮脱とは、分娩後に子宮の一部または全部が反転(裏返った状態の靴下のように)し、陰門外に脱出している状態です。原因としては、分娩時の過度な努責、難産による産道の損傷・無理な牽引、低カルシウム血症、分娩後の姿勢異常などが考えられます。

子宮脱を見つけたら

 子宮脱をした牛を発見した場合に、獣医師が到着するまでにやっていただきたいことについて説明します。まずは、脱出した子宮が汚れないように心がけてください。牛が寝ていて子宮が地面についている場合は、子宮の下にビニールシートなどを敷いてください。脱出した子宮には清潔なぬるま湯で汚れを優しく洗い流してください。さらに、表面が乾燥しないように定期的に洗ってください。消毒のためでも、ヨード剤などは刺激が強く子宮に悪影響を及ぼすので使用しないでください。
 冬場は凍結にも注意してください。牛が自力で起立できない場合は、整復するために吊起をする必要があるので、獣医師が到着するまので間に準備をお願いします。
 牛が起立している場合、子宮が下垂し、血流が悪くなることで浮腫を起こしてしまいます。そのままでいると、全身の血液循環も悪くなり、ショック状態に陥る可能性もあります。可能であれば子宮をできるだけ陰門と同じ高さに保持してください。牛が起立しているなら、脚立などにベニヤ板を乗せビニールシートなどを敷き、その上に子宮を乗せておくのも効果的です。そして、子宮を触るときは常に優しく触ることを心がけてください。強く握ってしまうと、乾燥してもろくなっている子宮は簡単に破けてしまいます。

子宮脱の処置

 獣医師は、牛と子宮の状態を確認し子宮を清潔に洗浄したのち、元に押し戻します。この時に、後産が残っているようであれば取り除きます。子宮を押し戻すときは根本からゆっくり押し戻しますが、その際に努責が強くなかなか押し戻せない可能性があります。その場合は、尾椎硬膜外麻酔といって、母牛の努責を弱める処置を行うこともあります。
 牛が起立できない場合、吊起し腰を浮かせるようにして押し戻します。しかし、腰を高く上げ過ぎると、一胃が頭側に滑り落ちて横隔膜を圧迫し、呼吸が苦しくなってしまうので、高く上げ過ぎないように注意してください。
 子宮を押し戻してすべてが終わりではありません。戻した子宮の先端が反転した状態のままになっていることがあるので、子宮脱整復棒などでしっかりと元の状態に戻す必要があります。場合によっては再脱出を防ぐため陰部を縫合します。
 整復後は、母牛が低カルシウム血症になっている可能性があるため、Ca製剤の投与を行い、子宮の収縮を促すためにオキシトシン製剤を投与することもあります。また、子宮から最近が感染し、産褥熱を起こすこともあるので、その場合は抗生剤による治療も必要となります。

子宮脱は初期対応が大事

 子宮脱は、発見・対応が遅れると予後不良となる場合もあります。治療によって牛が元気になっても、乾燥や地面に擦れてできた子宮内膜の損傷から慢性子宮内膜炎になり、その後の繁殖成績が悪くなり淘汰の対象となってしまうこともあります。そうならないためにも、農家の皆さんの初期対応が重要となりますので、今回の記事を参考にしていただけると幸いです。

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生地 伸康

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