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多血小板血漿(PRP)療法について
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再生治療とは、動物が生来もつ「自然治癒力」を活かした治療法で、人工物ではなく動物の細胞や血液由来の成分を利用して行います。再生医療にはさまざまな種類があり、脂肪、骨髄、関節内の滑膜、臍帯、羊膜などを原料とする幹細胞治療や、これらの幹細胞を培養した上澄みを利用する治療などたくさんの選択肢があります。
今回は、最も代表的かつ一般的な再生医療である多血小板血漿(PRP)療法について紹介します。
PRP療法とは
指を切ってしまったとき、カサブタができ、元通りに治った経験は誰にでもあると思います。実は、この一連の治癒過程には、血液の中に含まれる血小板が重要な役割を果たしています。また、打撲をした時には、ケガした部分が腫れることがあります。この腫れは、皮膚の下で出血したことによるものです。そして指を切った時と同じように、血小板から傷んだ組織の修復を促進する物質(成長因子)が供給され、傷んだ組織を元通りに治そうとする自己治癒機転が働いています。この自己治癒機転を応用したものが「PRP療法」です。
PRP療法では、事故の血液を少量とり、特殊な技術を用いて血液中の血小板を濃縮し、自己PRPを作成します。このPRP中には、成長因子が豊富に含まれているので、これを身体の傷んだ部分に注射することで、その部分の組織の細胞増殖、血管新生、細胞分化、アポトーシス制御、抗炎症作用が促進され、早期治癒や疼痛の軽減効果をもたらします(図1)。
人の医療におけるPRP療法は、整形外科領域の関節炎治療、歯科領域のインプラント治療、美容領域のしわ取り治療、産婦人科領域では難治性不妊症治療において広く使用されています。産業動物におけるPRP療法は、関節炎・腱炎・蹄病・骨折などの運動器病、乳房炎などの泌乳器病、卵巣静止・子宮内膜炎などの生殖器病などでPRP療法が行われています。
PRP療法の一例
屈腱炎は、上腕骨と肘節骨をつなぐ腱である屈腱(大きく外側の浅屈腱と内側の深屈腱の2つからなる)の腱繊維が一部断裂し、患部に発熱・腫脹を起こしている状態のことです。運動強度の高い競走馬では、これを発症すると治癒するまで数カ月から数年を要すると言われ「不治の病」「競走馬のガン」とも称されます。牛では競走馬ほどの運動強度は必要ありませんが、痛みが強いため牛舎で起立難渋となり、2次的な褥瘡(床ずれ)や滑走を患い、廃用となるケースが散見されます。
通常、罨法薬(塗り薬)や消炎剤で治療を行いますが、治療期間が長期になり効果が乏しい場合があります。本症例では、通常の消炎剤治療に加えてPRP療法を1回行うことにより、通常の治療期間より早く屈腱炎が治癒しました(図2)。
現在、PRP療法は新しい治療となるためNOSAI北海道では保険診療の適応外となっていますが、治療効果の改善や治療期間の短縮が見込めるかもしれません。適応症および治療費は担当獣医師や各診療所にお問い合わせください。
みなみ統括センター道南支所
道南北部家畜診療所
獣医師 山手 智行